美術史002:パリ、サント・シャペルのステンド・グラス
パリのサント・シャペル~赤のステンド・グラス~
私にとっての最初のヨーロッパは、パリだった。この時は、マレーシア航空の90日オープンチケットで、29時間くらいかかった南回り。今ではあんなハードな貧乏旅はできないけれど、本当に楽しかった。最初は北駅近くの気が滅入るほど薄暗いホテルに2泊したが、そんなことはどうでもよかった。そのあとカルティエ・ラタンからポール=ロワイヤルまでもう少し明るい宿をさがしつづけ、ようやく居心地の良い安ホテルに2週間ほど滞在した。
その間、幾度となくサント・シャペルには行き、その後もパリに行くたびに必ず訪れた。ある時、とうとう、「サント・シャペルの赤」に出会った。サント・シャペルで行われる20時からの中世音楽のコンサートに行った時だった。21時過ぎた頃、夏の日没直前の傾いた陽が堂内にさすと、見る見るうちに、礼拝堂全体が、お堂の中の空気全体が、周りの人々も、私の全身も、赤い光の海にひたされて行った。そしてとうとうすべてが、赤い光の海に浸かってしまったのだ。あの一時(いっとき)に出会えたことを幸せに思う。
人間のつくるものは素晴らしい。